
アロマテラピー検定の勉強をしていたら、ラテン語が出てきた。そもそもラテン語って何?
アロマテラピー検定はラテン語の勉強も必要なの?
そんな疑問にこたえます。
これを書いている人(さあや)は2022年11月にアロマテラピー検定2級に、2023年5月にアロマテラピー検定1級に合格しました。ラテン語歴は10年以上。勉強をしていたら思いがけずラテン語が出てきたアロマテラピー検定について、今回は書いていきます。
目次
アロマテラピー検定とは
アロマテラピー検定とは、日本アロマ環境協会(AEAJ)が主催している検定試験です。年に2回、5月と11月に実施されています。
2023年5月時点ではインターネット受験となっており、自宅で受験できます。2級は30分、1級は35分、4つの選択肢から選ぶ問題がそれぞれ55問、70問出ます。どちらも正答率80%で合格できます。合格率はおよそ90%で、2級と1級を同日に受験することも可能です。(『アロマテラピー検定公式テキスト(2020年6月改訂版)』より)
合格率は高めであり、対策をすれば合格には手が届きやすい資格ではないでしょうか。1級というと難しく思えますが、問題集からわかるようにアロマテラピーの基礎知識を確認するための試験です。1級取得後は、さらにその上のアロマテラピーアドバイザー、アロマテラピーインストラクター、アロマセラピストといった資格に挑戦することができます。
検定での出題
公式問題集にはこのような設問があります。
学名はラテン語で「海のしずく」を意味するローズマリー精油の原料植物の科名を1つ選びなさい。
ABCDの4つの選択肢(ここでは省略)から一つを選びます。答えは「シソ科」です。
学名は「コショウのような」という意味をもつペパーミント精油の主な抽出部位を1つ選びなさい。
答えは「葉」です。
このように、学名が出題されています。しかも設問によると、学名はラテン語に由来するというのです。
学名とは?
では、学名とはなんでしょうか?
辞書ではこのように定義されています。
学名
世界共通の生物の学術的呼称 『旺文社 生物事典』
簡単に言うと、さまざまな生物を区別するときに使う、世界共通の識別番号です。
生物は似たものをグループにまとめて分類されています。大きな単位から、「ドメイン、界、門、綱、目、科、属、種」となっています。
一つひとつを分類するために重要なのは、最後のほうの「科、属、種」です。アロマテラピー検定でも、この3つが大事になってきます。
公式問題集を見るとわかるように、「科」については複数問出題されているため、出題範囲の精油の原料植物がどの科に属するのかは押えておきたいところです。「属、種」は直接は出題されていませんが、実は検定では重要です。なぜなら、属と種からなるものが学名だからです。アロマテラピーの精油の学名では、リンネ(1707~1778)の考えた二名法という方法が現在も使われています。
二名法
二名法とは、リンネによって考案された生物の学名に用いられる命名法です。事典から引用します。
二名法
生物の種名は,この方法によって表記されることが,国際的な命名規約によって定められている.生物の学名は,属名(名詞形)を前に,種名(種小名)(形容詞形)をあとに,ラテン語またはラテン語化した語を用い,必ず大文字で起こし,ふつうイタリック体で表記する. 『旺文社 生物事典』
つまり、二名法による学名は、ラテン語かラテン語化した二つの語からできていて、一語目が「属」、二語目が「種」を表しているのです。たとえば、人間の学名はHomo sapiensで、ネコはFelis silvestrisです。
リンネの時代には様々な人が各自の方法で学名をつけていたため、別の種と区別するため必要以上に長くなるなど、不都合が生じていました。学名を人間の名前にたとえるなら、苗字とファーストネームに加えて、ミドルネームがついたり、特徴を表す語がついたりしていくうちに、命名者を思いを体現するかのような長い学名が出現していたのです。
他の植物と区別するための名称としては不便です。
リンネが提案したのは、属と種の二語によって区別する方法でした。いわば、苗字とファーストネームの二語からなる名前です。苗字が同じなら、ファーストネームがかぶってはならない、つまり「同姓同名はダメ」という決まりさえ守っていれば、苗字とファーストネームだけで十分区別することはできるのです。苗字が同じなら、同じ性質を有するという原則を維持しつつ。
1753年の『Species Plantarum』(植物の種)で示されたこの二名法は、国際植物命名規約の基準となり、現在でも新たな学名をつける際に使用されています。
リンネによる識別法は、時代を経て引き継がれるほど、簡潔、明瞭、便利な「識別番号」であったのです。
ラテン語とは
では、学名に使われているラテン語とはなんでしょうか?
ラテン語とは、古代ローマの言葉です。アロマテラピー検定の出題範囲でいうと、ローマ皇帝ネロの軍医として遠征に帯同したディオスコリデス(40~90頃)や、『博物誌』を著したプリニウス(23~79)の時代に話されていた言葉です。
プリニウスの『博物誌』はラテン語で記されました。ディオスコリデスはギリシア人であったため、『薬物誌』をギリシア語で書きました。『薬物誌』のタイトル「マテリア・メディカ」はラテン語です。
時代が進み、ラテン語がすがたかたちを変え、もはや母語をラテン語とする人がいなくなってからも、書き言葉としては西欧で使われ続けました。特に教育を受ける人にとってラテン語は必須でした。
リンネ(1707~1778)の時代でも論文や書物がラテン語で書かれていました。1753年の『Species Plantarum』(植物の種)も実はラテン語なのです。
こちらからスキャンしたものが閲覧できます。
https://www.biodiversitylibrary.org/item/13829#page/9/mode/1up
このような伝統を受け継ぎ、リンネの時代の学者たちは学名をごく自然とラテン語でつけていきました。今では論文がラテン語で書かれることはまずないでしょうが、新たな学名をつける際には変わらずラテン語が使われています。
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現代語の語源
このように、西欧で長らく使われてきたラテン語は現代語にも大きな影響を与えています。たとえば、英語の語源の一つに挙げられるのがラテン語です。
アロマテラピー検定の公式テキストにも出てきます。
香料や香水を表す「perfume」は、ラテン語の「per(通して)」と「fumum(煙)」に由来しています。 (76ページ)
公式問題集の1級では、
ラテン語の「煙を通して」という意味の言葉に由来するものとして正しいものを1つ選びなさい
という設問があります。答えはPerfumeですね。
これはほんの一例で、ラテン語を語源とする英単語はたくさんあります。
おまけ
少しややこしくなるのですが、ラテン語で煙を表す語はfumus(フームス)です。辞書を引くときはfumusで探すことになります。前置詞であるperと一緒に使われると、語尾がsからmに変わってfumumとなります。このような語尾の変化を格変化(かくへんか)といいます。以上から、「煙を通して」はper fumumとなるのです。
検定で学名が出題される精油一覧
アロマテラピー検定2級では11種類の精油のプロフィールが出題されます。このうち、9種類が香りテストの対象です。
1級では30種類のプロフィールが出題され、このうち17種が香りテストの範囲となっています。たとえばこんな精油が出題されます。
原料の植物名 | 科 | 学名(属+種小名) |
ペパーミント | シソ科 | Mentha × piperita(×は雑種を表す) |
ラベンダー | シソ科 | Lavandula angustifolia (Lavandula officinalis) |
ローズマリー | シソ科 | Rosmarinus officinalis |
クラリセージ | シソ科 | Salvia sclarea |
スイートオレンジ | ミカン科 | Citrus sinensis |
グレープフルーツ | ミカン科 | Citrus paradisi |
ブラックペッパー | コショウ科 | Piper nigrum |
ロサ(アブソリュート) | バラ科 | Rosa centifolia |
ジュニパーベリー | ヒノキ科 | Juniperus communis |
このうち、公式問題集で学名が出題されるのはこちらの精油です。
ローズマリー「海のしずく」
ペパーミント「コショウのような」
ラベンダー「洗う」「青みがかった鉛色」
一つずつ見ていきます。
ローズマリー
ローズマリー精油の原料植物の学名は先ほどの表で見たようにRosmarinus officinalisです。属名がRosmarinusで、種小名がofficinalisです。
属名RosmarinusのRos(ロス)がラテン語で「しずく」、marinus(マリヌス)がラテン語で「海の」を意味します。したがって、公式テキストに出てくるように、Rosmarinusは「海のしずく」なのです。
※学名表記に即して、ラテン語のカタカナ表記では長母音と短母音を区別しないことにします※
種小名のofficinalis(オッフィキナリス)は他の植物の種小名でもよく出てきますが、「薬用の」を意味します。
このうち、「海の」という形容詞のマリヌスは、現代語のマリンという言葉にもつながっています。マリンスポーツとかのマリンです。
ラテン語で「海」という名詞はmare(マレ)といい、これを語源にフランス語の海はmer(メール)となりました。ジブリ映画で「コクリコ坂から」というのがあったのはご存じでしょうか?主人公である海(うみ)ちゃんの通称がメルであるのは、このフランス語メールに由来しているそうです。
ペパーミント
ペパーミント精油の原料植物の学名はMentha × piperitaです。
piperita(ピペリタ)が「コショウのような」を意味します。ラテン語でコショウはpiper(ピペル)で、英語のpepperの語源にもなっています。
ラベンダー
ラベンダー精油の原料植物の学名はLavandula angustifolia とLavandula officinalisです。
このうち、属名のLavandulaがラテン語の「lavo(洗う)」や「lividus(青みがかった)」に由来するとされています。(公式テキスト121ページ)
「洗う」のlavo(ラヴォ)はあまりなじみがないかもしれませんが、英語のlavoratory「トイレ、洗面所」やlaundry「洗濯物、洗濯屋」の語源というとわかりやすいでしょうか。
「青みがかった」のlividusはマイナーですが英語のlivid「怒った、青ざめた」の語源です。
学名ではありませんが、クラリセージ精油の「クラリ」はラテン語のclarus(クラルス)「明るい」とされています。この単語は、英語のclearの語源です。
以上が、アロマテラピー検定に出題される植物の学名でした。ラテン語自体を知らなくても、英単語からたどってみると、意外と納得がいくことから、検定では比較的理解しやすい学名が設問となっていると考えられます。
公式問題集にはここで紹介したローズマリー、ペパーミント、ラベンダーが何度も出ているため、学名のラテン語の由来はこの3つを押えておきましょう。もし、知らないものが出ても、問題文の他の情報や選択肢の消去法などで正解にたどりつけるといいですね。
ラテン語について知るなら
精油の原料植物の学名について気になるので、ラテン語を知ってみたい! と思ったら!
現代でも、ラテン語を勉強する人はいて、辞書も文法書も販売されています。
ただ、いずれもラテン語が実際に母語として話されていた古代ローマ時代のラテン語を読むことを念頭に作られているため、学名に詳しくなるために活用するにはあまり向かないようにも思います。
たとえば、学名によく出てくるofficinalisは、日本で最も手にしやすい辞書『羅和辞典』には載っていません。ラベンダーの属名lavandulaも出てきません。
上の表で紹介した学名に出てくるros、marinus、lividus、lavo、piper、clarusなどは掲載されている、つまり古代ローマでも使われていたラテン語であるため、まったく参考にならないわけではありませんが。
もし、学名を中心に知りたいというのであれば、こちらの本がおすすめです。
アロマテラピー検定で出題される精油30種類の原料植物を含む、多種多様なハーブの語源について詳しく解説されています。
学名についての楽しい雑学でしたら、『学名の秘密』もおすすめです。
また、ラテン語やローマについての読み物でしたら今はこんな本が出ています。
もし、読んでみて興味が出てきたら、ラテン語文法を学んでみるというのもいいかと思います。遠回りではありますが、学ぶ上で見知った単語の知識が意外なところで生きてきます。
まとめ
アロマテラピー検定では、精油の原料植物の学名について出題されます。リンネの考案した二名法は現代にも受け継がれ、今でも学名をつける際にはラテン語が使われています。学名のラテン語の由来についてよく出題されるのはローズマリー、ペパーミント、ラベンダーでした。
学名の理解に、このブログが役に立つと嬉しいです。
原料植物の学名の意味について学びながら、検定試験に備えていきましょう。