
こんな疑問に応えます。
本記事の内容
・英語とラテン語の単語はこれだけ似ている
・ラテン語が英語の語源になったわけ:2つの出来事をおさえよう
・英語とラテン語の文法は似ているか
私はラテン語の学習をはじめて10年以上たちます。
そもそものきっかけは、英語の語源はラテン語だと聞いて興味を持ったことでした。
ラテン語と英語の関係には、イギリスの歴史が大きくかかわっています。
それを知った時に、「あの歴史的事件の影響で英語がこんなに変わったのか」と私は感動しました。
本記事では、英語とラテン語の関係をイギリスの歴史をひもときながら、わかりやすく解説していきますね。
最後におすすめの本も紹介します('ω')
目次
英語とラテン語の単語はこれだけ似ている
まず、英語とラテン語の単語がいかに似ているかについてです。
ベストセラーで本屋ではよく平積みにされている本です。
この本の特徴は英語の語源がイラスト入りでわかりやすく解説されていること。
(Amazon.co.jpより転載)
このページでは、spectがつづりに含まれる単語 prospect、inspect、respect、suspect、expectが出てきます。
ここの単語はこんな感じで分解できます。
prospect = pro (前を) + spect (見る)→ 見込み、見通し
inspect = in (中を) + spect (見る)→ 検査する
respect = re (後ろを) + spect (見る)→ 尊敬する
suspect = sub (下から ) + spect (見る)→ 疑う
expect = ex (外を) + spect (見る)→ 期待する
英単語はこんな感じで、分解することができるのです。
そして、prospectだと、pro「前を」とspect「見る」が組み合わさってできています。
「前を見る」から「見込み」、「見通し」という意味になったのです。
他の単語も同じように、二つの意味が組み合わさってできています。
実は、ここに出てくるpro、in、re、sub、ex、spectって、元はすべてラテン語なのです。英語の語源がラテン語と言われるゆえんです。
つまり、英単語はラテン語がわかれば意味を推測するのが容易になるわけです。
では、なぜラテン語の単語が英語に影響しているのでしょうか?
以下で見ていきます。
ラテン語が英語の語源になったわけ:2つの出来事をおさえよう
英語を知るにはイギリスの歴史を知ることが大切です。
なぜなら、「英語」はイギリス(英)の言葉だからです。
ラテン語の単語が英語にたくさん流入したことが、歴史上で2回ありました。
ラテン語の影響を知るには、この2つの出来事をおさえておけば大丈夫です。
以下で解説していきます。
ノルマン・コンクエスト:フランス語からの影響
一つ目の出来事は、ノルマンディー公ウィリアムがかかわっています。彼こそが、ラテン語の影響を英語にもたらした人物なのです。
イギリスでは、1043年からエドワード王が統治していました。1066年に亡くなると、次の王にハロルド2世が即位しました。
しかし、ここで「自分の方が王になるべき」と主張する人物が現れます。
それが、ノルマンディー公国の首長であるウィリアムです。
ノルマンディーとは、フランス北西部の地域。
その土地の長であるウィリアムが、前王エドワードの親戚であることを理由にイギリスの王位継承権を主張したのです。
ヘースティングズの戦い
イギリス王ハロルドとノルマンディー公爵ウィリアムは王位を巡ってヘースティングズで戦います。
その結果、ウィリアムはハロルドを破り、イギリス王となりました。
いわゆる、「ノルマン・コンクエスト(征服)」という出来事です。
ウィリアムはフランス北部のノルマンディーに加えて、イギリスをも支配下に治めるようになりました。
地図のピンク色の部分が彼の支配地域です。
彼の存在は、言語面でいうとまるで黒船のようなもの。
なぜなら、彼がイギリスに来たことで、新たな言語文化がもたらされたからです。
どういうことか説明していきます。
ウィリアムはフランス育ちなので、フランス語を話します。
彼がイギリス王になったことで、公務もフランス語で行われるようになりました。
次第に、フランス語がイギリスの支配階級の言葉になっていきます。
その結果、英語にもフランス語の単語が大量に流入することになりました。たいていの場合、フランス語はすこし形を変えて英単語になっています。
フランスはもともとラテン語の話されていた地域なので、フランス語にはラテン語を語源とする単語が多くありました。そんなフランス語が英語に入り込んだため、ラテン語を語源とする英単語も増えたのです。しかも大量に。
以上が、ラテン語を語源とする単語が大量に英語にもたらされた出来事です。
ウィリアム王がイギリスに来たことで、ラテン語は英語の中で生き続けることになりました。
ルネサンス期:空前のラテン語ブーム
次の大きな出来事はルネサンスです。これは言ってしまえば懐古趣味です。
その前に歴史を確認しておきます。
先に紹介したノルマン・コンクエストの後、イギリスではフランス語を話す王による統治が続きました。
英語を話す王に戻ったのは、百年戦争中の1399年。ヘンリー4世が即位してからです。
それから時を経た16世紀頃のこと、イタリアから花開いたルネサンスが少し遅れてイギリスにももたらされます。
ルネサンスとは文芸復興運動のことです。当時の文化よりも古代いにしえの文化を懐かしんで見直そうとするものです。
西洋にとっての古代というのは古代ギリシアとローマのこと。
したがって、ルネサンス期にはギリシア・ラテンの古典文芸の研究が盛んになったのです。
絵画のテーマとしてもギリシア神話が好まれました。
「ヴィーナスの誕生」by ボッティチェリ
英語にも影響があり、ラテン語の単語が導入されることになりました。
空前のラテン語ブームの到来です。
その結果、ルネサンス期だけで約1万語のラテン語が英語の語彙に入ることになりました。
もちろん、ラテン語がそのまま英語になったわけではなく、すこし形は変わっています。
ラテン語から英語へ
ラテン語のdividere → 英語のdivide
ラテン語のdirectus → 英語のdirect
ラテン語のconductus → 英語のconduct
このように、ラテン語の語尾を落としたものが英単語となっていきました。
一万語のうち、現在の英語に受け継がれているものは半分だけですが、それにしてもすごい数のラテン語が英語に形を変えて今日まで使われていますよね
(*´ω`)
ちなみに、ギリシア・ローマの古典復興ということで、ギリシア語の語彙もたくさん英語にもたらされました。
たとえば、anthropology、biology、economics、mathematics、physics、dogma、systemなどの学術用語はどれもギリシア語からできた単語です。
まとめ
以上のように、ノルマン・コンクエストとルネサンスという2つの出来事のおかげでラテン語の語彙が英語に入りました。
その後の英語がどうなったかも少しだけご紹介します。
イギリスは1588年にスペインの無敵艦隊を破ったのをきっかけに世界への進出を開始します。その結果、世界中でイギリスの植民地が築かれることになりました。
イギリスは支配域を拡大したものの、ある意味寛容でした。なぜなら、英語は自らの語彙に植民地の言葉を取り入れていったからです。
たとえば、日本でもおなじみのカレーは英語では同じくcurryですが、これはインドのタミル語に由来しています。
他にもたくさんの言語から単語が入りました。日本語からのもありますよ。
詳しくはこちらの本をご覧ください。
英語とラテン語の文法は似ているか
英単語とラテン語単語が似ていることと、その原因となった歴史上の出来事については上で確認しました。
では、英語とラテン語の文法は似ているのでしょうか?
結論からいうと、あまり似ていません。ラテン語の方がかなり複雑です。
ただ、英語ができるとラテン語を勉強するのも楽になるかと思います。
なぜなら、ラテン語を勉強する上で、「名詞」「形容詞」「動詞」「代名詞」「関係代名詞」「動名詞」など英語でもおなじみの文法用語が出てくるからです。
つまり、英語とラテン語は
単語:とっても似ている 文法:少しだけ似ている
という関係です。
最後におすすめの本を紹介します(*´ω`)
『英語の歴史』中公新書
古代から現代にいたるまでの英語の歴史を、イギリス史を通してみていく本です。
英文法やつづりが歴史を通じてどのように変わったのかも解説されています。
英語の語源については、こちらが決定版です。
『英単語の語源図鑑』清水建二
大きい本屋には平積みされているベストセラーです。
イラスト付きで字も大きく、目で見てわかりやすいのが特徴です。
語源を使って英語を学びたい方は一冊持っておきましょう。
『英単語 語源ネットワーク』
こちらは、英単語の語源だけでなく、
英語の歴史もわかりやすく解説されていておすすめです。